MLBの日記

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アレク・ミルズ

現地13日。

敵地ミラーパークで行われたミルウォーキー・ブルワーズ戦で、シカゴ・カブスのアレク・ミルズにベースボールの神様が微笑んだ。

今季9試合目の先発。ここまで4勝3敗、防御率4.74。

速球は、90mph(144.8㎞)前後だが、スローカーブで緩急をつけ、高低も上手く使って打ち取った。3四球とコントロールは安定しなかったが、昨季後半からダルビッシュ覚醒の一翼を担ったビクター・カラティーニの好リードが助けた。

仲間の大量援護にも支えられ、3四球5奪三振、自己最多114球の粘投だった。

チームトップ7勝のダルビッシュに次ぐ5勝目を挙げた。 

カブス投手によるノーヒット・ノーランは2016年のジェイク・アリエタ(現フィリーズ)以来、4年ぶり16回目。 

今季メジャーでのノーヒットノーランは、シカゴで二度目。史上初の出来事だ。

8月25日にホワイトソックスのルーカス・ジオリトがパイレーツ戦で達成して以来、今季2人目の快挙。

 

ミルズは、苦労人だ。「メジャーリーグで投げることが夢だった、ノーヒッターのことなど、考えたこともなかった」という。一番驚いているのは、当の本人かもしれない。

ドラフト1巡目のトッププロスペクト、エリートでエースのジオリトとは、訳が違う。

テネシー大マーティン校には、スポーツ奨学金を得られず、自主入学し、2012年ドラフトの22巡目(全体673位)にロイヤルズに指名されたが、怪我にも苦しみながら、メジャーでの出場は2016年に3試合のみでDFA(ロースター枠から外れること)となり、17年にトレードでカブスに移籍してきた。

メジャー初勝利は昨年、9月16日のレッズ戦。カブスの3番手として登板し、2回を無失点に抑えてメジャー3季目にして、念願の白星を手に入れていた。

今オフ、ホセ・キンタナが皿洗いで指を切らなければ、先発ローテに入るかも微妙だったのだ。 

 

デビューからわずか15度目の先発登板で成し遂げた快挙には、興味深いデータが出ている。

空振りはたったの5。これは1人で無安打無得点に抑えたケースとしては、2010年にレイズ戦で完全試合を達成したオークランド・アスレチックスのダラス・ブレイデンと並んでここ30年間では最少数。しかも、相手打者に「ジャストミート」でとらえられた打球は11もあり(うち外野への飛球は5)、被安打なしの被ジャストミート11は、データ解析ツール“スタットキャスト”が導入された2015年以来で、タイ記録(スポーツ専門局のESPNより)。ノーヒット・ノーラン史上、稀に見る幸運に恵まれた試合だった。

90mphに満たない速球と遅球チェンジアップのコンビネーションにスライダーで、打たせて取るミルズと似たスタイルの技巧派だったブレイデン。

垂幕の209は、故郷ストックトンの市外局番で、209セクションの客席のチケットを半額にするキャンペーンを、この母の日から、ブレイデンの登板日に限り開始していた。

プロ入り前にガンで他界してしまい、その雄姿を母には見せることが出来なかったが、素行不良だった孫をいつでも優しく見守ってきた最愛の祖母の前で、歓喜の達成だった。 

2014年に引退しているブレイデンは快挙から10年後の今年、「あの試合は二日酔いだった」と衝撃告白をしている。酒で余計な力が抜けたのかもしれない。

 

必ずしも大投手が達成するとも限らないノーヒッターや完全試合。無名の選手が突然成し遂げることは、意外と多い。あらゆる構成要素が噛み合ったときに、ようやく起こるのだ。 

ベースボールの、ピッチングの面白さを感じざるを得ない。

 

  

ナショナル・リーグ中部地区の首位カブスは、2位とのゲーム差を4に広げた。

気になるのは、サイ・ヤングレース。

2年連続でサイ・ヤング受賞のジェイコブ・デグロムが、今季も最有力。肉薄するダルビッシュは、残る3登板のうち1戦でも崩れれば、厳しくなる。次戦のクリーブランド・インディアンス戦を乗り切れれば、正念場になるのは、強力打線を擁するミネソタ・ツインズだ。日本人初の快挙達成に、過去最も近づいている。

 

 

 

 

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