MLBの日記

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バスター・ポージー

オフシーズンで一番の衝撃的なニュースは、バスター・ポージーの引退表明だった。

偉大な捕手の現役最後の試合を振り返っておきたい。

 

 

昨年、現地10月14日。

ラクル・パークで行われた地区シリーズ。2勝2敗で迎えた第5戦。

誰もが予想しえなかったダークホース。チーム史上最速で、チーム史上最多の107勝をあげての9年ぶりの地区優勝を果たしたサンフランシスコ・ジャイアンツ

 

近年の常勝軍団で、ディフェンディングチャンピオン。9連覇を阻まれるも、穴がない最も戦力値の高いチーム、ロサンゼルス・ドジャース

 

106勝VS107勝。数字だけ見れば事実上の決勝戦。東地区のヤンキースレッドソックス同様、西地区における伝統のライバル対決。エンタメ性も抜群のカード。

3割打者も、30本塁打者も、100打点者もいない。特出した打者はいないが、11人が二桁本塁打で稼いだホームラン数はリーグ1位(241)、対する投手は常に一発の危険にさらされる油断を許さない打線だ。

防御率、WHIP ( (与四球 + 被安打) ÷ 投球回)が全球団トップのブルペン陣が、リードを守り切る。

大躍進の立役者はチーム一筋のベテラントリオ。

2010、2012、2014と3度のワールドチャンピオン経験者バスター・ポージー

2012、2014と2度のワールドチャンピオン経験者ブランドン・ベルト、ブランドン・クロフォード。

 

特に際立つ存在は、チームの頭脳ポージー。2020シーズンを家族のために全休したにもかかわらず、34歳にして全盛期に迫る打撃成績をたたき出した。

相手打者それぞれの特徴に対して、弱点を突くリードは抜群で、裏をかくのも上手い。ビッグネームのいない投手陣が大躍進した要因だ。

特にアンソニー・デスクラファニーが防御率3.17・13勝7敗、オールスターゲーム初選出されたケビン・ゴーズマンが防御率2.81・14勝6敗、これまで今一歩だった二人は、キャリアハイを大幅に更新している。

 

ゴールドグラブ三度受賞、守備のイメージが強いクロフォードも34歳にして、打率.298・本塁打24・盗塁11・打点90・OPS出塁率長打率).895と、いずれもキャリア最高の成績を残した。

健在ぶりを見せた第3戦。抜ければ同点の場面だった。

161.5kmの打球を、1.6秒後にドンピシャキャッチ。

どの試合でも、やるべきことは変わらない。ビッグプレーの後でも表情を崩さないクロフォードから学べるのは、平常心と集中力。

 

第三戦の決勝打者エバン・ロンゴリアが下位に控える。36歳になってもバットコントロールは健在。通算317本塁打を誇る元レイズの顔。

カブスから夏の補強で獲得した好打者クリス・ブライアントが加わり、打線に厚みが増した。

 

痛恨の極みだったのが、ベルトの離脱。チームで最もボールを遠くまで飛ばせる選手が、死球を受け、左手親指を骨折。2度の故障者リスト入りで、97試合にしか出場していないものの、打率.274・本塁打29・OPS.975をマーク、初めてのシーズン20本塁打越えを果たし、キャリアハイを大幅更新。本塁打が出にくいオラクル・パークを本拠地とするジャイアンツの選手としては、2004年にバリー・ボンズが45本塁打を記録して以来、最高の本数だった。

 

第1戦で7回2/3を無失点に抑えたハワード・ウェブが先発。

防御率3.03・11勝3敗と今季ブレイクした24歳。この人の球、縦にも横にも良く動く。相手が打ち気になればなるほど、ゴロ山を築けるイニングイーターだ。

 

 

リーグ打点1位(799)の矛と両リーグで防御率1位(3.01)の盾を併せ持つ。

懸念点としては、2020年のサイ・ヤング賞投手トレバー・バウアーが、女性暴行疑惑でシーズン中の復帰絶望。チーム最多36本塁打マックス・マンシーが一塁守備時に走者と交錯して左ひじを負傷し離脱。チームの顔クレイトン・カーショウが左前腕痛による離脱だったが、流石のドジャースは夏の移籍市場で、

今季の首位打者と自身2度目の盗塁王で、2冠に輝いたトレイ・ターナー

三度サイ・ヤング賞に輝く、2010年代の最高の右腕(161勝、2452奪三振)マックス・シャーザーを補強しており、戦力ダウンは感じさせなかった。

 

 

 

先発ウェブがこの日も好投したものの、

6回。コーリー・シーガーの先制タイムリ二塁打で、14イニング目で、初失点。

その裏。ダリン・ラフがフリオ・ウリアスの速球を捉え、ポストシーズンでのキャリア初安打となる本塁打を放って、同点に追いつく。

「スタットキャスト」は、飛距離が452フィート(約138メートル)で、ポストシーズン史上最も大きなホームランを計測。

 

ドジャースは8回裏にクローザーのケンリー・ジャンセンを前倒し、見事三者凡退で流れを呼び込む。

9回表、1死一、二塁の場面。

シーズン打率 .165、本塁打10本と大不振だったコディー・ベリンジャーが、三番手で新守護神カミロ・ドバルから、値千金の勝ち越しのタイムリーを放って2ー1。

最後は今季15勝を挙げていたシャーザーがクローザーとして登板し、自身432試合目にして、キャリア初のセーブを記録してシリーズを締めくくった。

惜敗。第1戦(4-0)と第3戦(1-0)では完封勝ちを収めたものの、それ以外の3試合での合計スコアは5ー18とドジャースの強力打線を抑え込むことができなかった。

 

 

昨季のジャイアンツは、応援したくなるチームだった。

同地区の2強、ドジャースパドレスは、ビッグスターが犇めく派手なチーム。対照的に、黄金期を終え、再建のサイクルに入った3番手、ベテラン臭漂う地味な玄人集団。おじさんになるほど、年長選手の活躍が嬉しくなる。

静かで落ち着いた印象だったジャイアンツは、毎試合ヒーローが入れ替わり、堅実な野球、丁寧なプレーで、着実に勝ち星を増やしていき、自信を深めていった。

指揮を取ったのは、日本のジャイアンツにも在籍経験があるゲーブ・キャプラー監督。

MLBトップの107勝はチーム史上最多で史上最速。その采配が認められ、ナショナルリーグ最優秀監督賞受賞となった。

 

113試合に出場し、打率.304、18本塁打、56打点、OPS .889で、カムバック賞。各ポジションで最も打撃が優れた選手に贈られるシルバースラッガー賞にも輝いた。

今ではめっきりと減ったフランチャイズプレイヤーで、2010年代最強の捕手。オールスター・ゲーム選出は、3年ぶり7度目だった。

2010年の新人王。

2012年のMVP。ナ・リーグ捕手では70年ぶりの首位打者

2012年のハンク・アーロン賞。各リーグ最も活躍した打者に贈られる。捕手で受賞したのはポージーだけ。

2016年のゴールドグラブ。

2012年、2014年、2015年、2017年、2021年のシルバースラッガー賞

 

輝かしいキャリアで、特筆すべきは2012、2021年のカムバック賞2回だ。クールで利発そうな顔立ちの中に凄まじい闘志を秘めている。

病気や怪我を乗り越えて再び優秀な成績を残した選手に贈られる賞で、2005年からMLBで公式に設けられたが、2度の受賞はフランシスコ・リリアーノとたった2人。1965年から「スポーティング・ニュース社」が行っているカムバック賞においても、2度の受賞は6人しかいない。2度受賞者のポジションは一塁手か投手に限り、身体の負担が大きいキャッチャーでは、MLBの長い歴史においてポージーたった1人。現役捕手でMLBカムバック賞の受賞者にサルバドール・ペレスがいるが、まもなく32歳ということを考えると2度目は考えづらい。目立たないが、今後現れないかもしれない偉大な記録だ。

そしてMLBの歴史を変えた功績がある。

2014年から採用された本塁での衝突(コリジョン)を防止するための規則であるコリジョンルール(別名、バスター・ポージー・ルール)の生みの親。結果的に、自身の身を挺して、その後の選手たちを守るという大偉業を成し遂げることになった。

 

クーパーズタウンに刻まれた名選手たちと比較すれば、実働12シーズンは短く、通算成績、打率.302、1500安打、158本塁打はやや寂しい。それでも、ポージーは数字で語ることは出来ない。殿堂入りに相応しい。

ちなみに、2大捕手のもう一人、今季19シーズン目での引退宣言をしているセントルイスカーディナルス一筋のヤディアー・モリーナは、殿堂入りが確実視されている。

 

 

来季も期待が増す中での突然の引退だった。身体は満身創痍だった。コロナの影響も大きく、家族との時間を確保するためということだった。賢いポージーなら、何をやっても成功しそうだが、ジャイアンツの監督として錦を飾るのがドラマティック。ファンも心待ちにしているだろう。

感動をありがとう。

 

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。