柔よく剛を制す
大谷がシーズン終了後、トミージョン手術に踏み切るようだ。
大方の予想通り、二刀流にこだわればそうなる。
MLBの日本人選手に当てはめて考えれば、2011年に松坂大輔(レッドソックス)、2012年に和田毅(カブス)、2013年に藤川球児(レンジャーズ)と30歳を超えてからの決断は、その後思うようになってはいない。復活した田澤純一は、言われている通り、回復の早い23歳と若い段階での手術が成功の大きな要因とされている。
手術自体の成功率は、80%とも90%とも言われ、今ではほとんど失敗しないまでになっているようだ。
問題はそのあと。リハビリ、体のつくり方にある。もし現役を長く、成績を伸ばすなら、今まで通りではいけない。あまりにも高すぎるポテンシャル、ブンブン振り回していれば、身体は悲鳴を上げる。二刀流を続けるなら、何かを捨てる必要がある。
イチローは長打、黒田は速球、を捨てた。上原はフォームを変えた。メジャーで大成功できた秘訣である。
イチローは44歳の今でも、信じられないことに練習では大谷より柵越え率は高い、打とうと思えば打てる。パワーに憧れウエイトをしたこともあったようだが、長くプレーするため、ヒット量産のために、柔らかさを大切にした。
黒田は自身の著書『決めて断つ』の中にある。日本では球威で勝負できても、メジャーでは通用しない。ロサンゼルスに来て打球の速さ、飛距離に衝撃を受けたという。葛藤のなか生き残るために速球を捨てた。長いイニングを投げるためにゴロアウトが取れるツーシームを軸に、スライダー、スプリットで打ち取る技巧派へとスタイルを変えた。その中で、力も抜けて柔らかいフォームになっていった。広島カープのエースにまで成り上がった選手が、今まで自分の信じてきたモノを決めて断つ勇気は、想像を絶する。
上原はマウンドの硬さに苦しんだが、反発を受けない前に飛び出すようなフォームに変えた。
「マー君、神の子、不思議な子」と野村克也元楽天監督に言わしめるほど、勝ち運に恵まれた田中将大は、イチローと黒田と共にプレーできる幸運にも恵まれた。NPBより共に行動する時間は長い、野球に対して真摯な田中が、この偉大な二人の先輩から影響を受けないはずがない。
徹底した準備を怠らないこと。相手を抑え込むより、自分に負けないこと。目の前の一試合一球に集中して、シーズン怪我無くローテーションを守ることを第一としている、二人ともに一致する考え方だ。当たり前のことのようだが、出来ている選手は多くない。
PRP療法のこともあるが、まさに黒田のような、力投型ではないゴロを打たすイニングイーターへと変貌を遂げている。
大谷も見習うべきだ。速球に対するこだわりを捨てる、肘に負担のかからないフォームに変えるなど、とにかく怪我をしないことが最重要課題である。100年に一度の珍事、二刀流が魅力的すぎる故に待望するのは理解できるが、プレー出来なければ意味がない。得るは捨つるにあり、想像を超える才能を以てしても、あれもこれもと欲張れば、またきっと壊してしまう気がしてならない。私はそう思う。
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